リモートワークの普及や電子帳簿保存法など、紙ベースの文書や決裁プロセスをデジタル化する動きが広まっています。
契約書に関しても、各社から提供される電子契約サービスを通じて取り交わす場面が増えてきました。
ただし、そのサービスは初期費用及び月額料金制であるため、中小企業においてはまだまだ導入に踏みきりにくいものです。
その代わり電子契約には紙の契約書にはないメリットもあり、そのメリットが支払うコストに見合うものであれば導入する余地はあります。
電子契約のタイプ
電子契約には大きく分けて以下2つのタイプがあります。
契約印タイプ(立会人型)
電子メールを通じたURLを送信し、それをクリックすることにより、本人性を担保します。
実印タイプ(当事者型)
電子認証局によって本人確認・発行された電子証明書により署名します。
電子契約のメリット
コスト削減(印紙税及び製本、郵送費用等)
電子契約サービスにより締結された契約書の最大のメリットは
印紙税がかからない
ことです。
印紙税法において「電子契約については印紙税は不課税」と明記されているわけではありませんが、下記法令を読み解くと、印紙税は電子契約に対しては課税されない根拠が見えてきます。
(印紙税法)
国税庁第3条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
(印紙税法基本通達)
国税庁第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
上記2つの条文から、課税文書を作成する際に用紙等を用いて課税事項を記載し行使することで印紙税が課税されると解釈されます。従って用紙ではない電子データによる電子契約の締結は課税文書の作成に該当しないということになります。
また、契約書ではありませんが、注文請書という文書の電磁的記録に関する国税局の下記のような見解もあります。
また、印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされている。上記規定に鑑みれば、本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。 ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。
国税庁
実務で目にする機会が多い請負契約書を例に見ていきます。請負契約書は印紙税法の第2号文書「請負に関する契約書」として下記のように分類・規定されています。
文書の種類 | 印紙税額(1通または1冊につき) |
[請負に関する契約書] 工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など (注) 請負には、職業野球の選手、映画(演劇)の俳優(監督・演出家・プロデューサー)、プロボクサー、プロレスラー、音楽家、舞踊家、テレビジョン放送の演技者(演出家、プロデューサー)が、その者としての役務の提供を約することを内容とする契約を含みます。 | 記載された契約金額が 1万円未満(※) 非課税 100万円以下 200円 100万円を超え200万円以下 400円 200万円を超え300万円以下 1千円 300万円を超え500万円以下 2千円 500万円を超え1千万円以下 1万円 1千万円を超え5千万円以下 2万円 5千万円を超え1億円以下 6万円 1億円を超え5億円以下 10万円 5億円を超え10億円以下 20万円 10億円を超え50億円以下 40万円 50億円を超えるもの 60万円 契約金額の記載のないもの 200円 ※ 第2号文書と第3号文書から第17号文書とに該当する文書で第2号文書に所属が決定されるものは、記載された契約金額が1万円未満であっても非課税文書となりません。 (注) 平成9年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成される建設工事の請負に関する契約書のうち、契約書に記載された契約金額が一定額を超えるものについては、税率が軽減されています(平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものについてはコード7108「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」をご利用ください。 |
請負金額が大きい場合や、請負業者の数が多く契約期間が1年ごとなどの場合であれば、電子契約サービスのランニングコストをある程度吸収できます。その他の分類の契約書については印紙税法別表や顧問税理士の方への相談などで確認をして下さい。
また、電子データでやり取りするため、製本費用・取引先への郵送作業も削減することができます。
処理プロセスの可視化
電子契約では、紙ベースの契約書に押印する印鑑に相当するものとして最終承認者の承認処理及びタイムスタンプが付与されます。更にその電子契約に関与した担当者による処理日時も明確にログとして残るため、どういう手順で契約に至ったかを後で振り返ることも可能です。
物理的スペースの削減
契約書をキャビネットなどに保管する必要がなくなるので、物理的なスペースの削減につながり、場合によっては他の業務に関わるコスト削減につながる可能性もあります。
電子契約のデメリット
電子契約が認められない契約書類
下記の書類については電子契約が認められず、書面による契約が必須となります。
文書名 | 根拠法令 |
事業用定期借地契約 | 借地借家法第23条 |
企業担保権の設定又は変更を目的とする契約 | 企業担保法第3条 |
任意後見契約書 | 任意後見契約に関する法律第3条 |
相手方へ説明し、同意を得ることが必要
契約は相手があることですので、今まで取り交わしていた紙の契約書を電子契約に変更する場合には相手方へ仕組みを説明し、同意を得ることが必要です。
また、社内においても捺印権限者に対して説明し承認を得る必要があります。
この点については、期間限定のフリープランにより使用感を確認しながら検討するという方法もあります。その際使用するデータは可能であればダミーデータなどが良いかと思われます。
契約サービスにバラツキが生じる可能性
深刻なデメリットというわけではありませんが、取引先から受ける電子契約のサービスが自社のものと違う場合は、異なるサービスにおいて電子契約を管理しなければならず、契約書の管理や閲覧時に手順が煩雑になる可能性があります。
実印タイプ(当事者型)の場合、コスト削減が見込めない場合も
電子契約を始めたとしても、実印タイプ(当事者型)を選択した場合、高い本人性の確保と引き換えに電子証明書発行費用などの費用が掛かり、コスト削減効果が見込めない場合もあります。
文書管理ソフトとして使えるか?
せっかく電子契約という電子文書を扱うソフトを導入するのだから、どうせなら既存の電子文書や、紙の書類からスキャンされた電子文書もまとめて保管し、文書管理システムとしても運用したいところですが、その場合は追加料金が必要で、そちらを使うよりは別の文書管理システムを使用する方がリーズナブルなケースもあるようです。
まとめ
最後に、紙の契約にかかるコストと電子契約におけるコストの内容を簡単に対比します。実際の費用はそれぞれの状況に応じてレビュー頂ければと思います。
費用の内容 | 紙ベース | 電子契約(立会人型) | 電子契約(当事者型) |
印紙税 | あり | なし | なし |
実印作成費用 (起業したり作り直す場合) | あり | なし | なし |
月額費用 | なし | あり | あり |
郵送費用 | あり | 送信料あり | 送信料あり |
郵送作業 | あり | なし | なし |
製本費用・作業 | あり | なし | なし |
電子証明書発行費用 | なし | なし | あり |
電子契約のメリットとして印紙税とともに紹介される郵送費用に関しては、確かに郵送費用はかからないものの、毎回データ送信料が発生する場合はその送信料が実質的には郵送費用に相当するものになります。ただし郵送費用は書類の重さや郵便の種類によって変わりますが、送信費用は一律同額です。郵送作業は確実に発生しません。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
コメント